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東京地方裁判所 昭和59年(刑わ)1738号 判決 1984年7月26日

主文

1  被告人を懲役八月に処する。

2  未決勾留日数中二〇日を右刑に算入する。

3  警視庁荏原警察署で保管中のポーカーゲーム機六台及び東京地方検察庁で保管中の現金一〇〇〇円を没収する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、東京都品川区中延五丁目八番二号所在のゲーム喫茶「くみの部屋」の経営者であるが、昭和五九年一月中旬ころから同店舗内に「ポーカー」と称する遊技機六台を設置し、中島忠義らと共謀の上、常習として、同年三月一七日、同店において、中田長三を相手方として右遊技機を使用し、金銭を賭けて画面に現われるトランプカードの組合せ等によりその得点を決めて勝負を争う方法の賭博をしたものである。

(証拠の標目)《省略》

(法令の適用)

被告人の判示行為は、刑法六〇条、一八六条一項にあたる。

同法二一条(主文2)。

同法一九条一項一号、二号、二項本文(主文3)。

(訴因及び没収について)

一  訴因について

本件訴因は、「被告人は、判示「くみの部屋」の経営者であるが、中島忠義らと共謀の上、同店舗内に「ポーカー」と称する遊技機六台を設置し、常習として、昭和五九年一月中旬ころから同年三月一七日までの間、同店において、中田長三らを相手方として右遊技機を使用し、金銭を賭けて判示のような方法の賭博をしたものである。」というものであり、これは、常習賭博の実行行為は、昭和五九年一月中旬ころから同年三月一七日までとの主張と解される。

しかしながら、刑法一八六条一項にいう常習賭博罪は、構成要件の規定の仕方から明らかなように営業犯ではないのである。常習賭博罪の構成要件は、刑法一八五条に規定する賭博を犯したこと、その犯人に賭博の常習性があり、その常習性の発露として賭博をしたことである。従って、常習賭博罪の訴因は、賭博行為自体については、同法一八五条の場合と同程度に特定される必要があるものといわなければならない。たしかに常習賭博罪は包括一罪とされており、とくに本件の場合のようにいわゆるポーカーゲーム機を利用する場合には、賭博の形態は定型的であって営業犯として包括的にとらえることが最も実態に即していることは認めなければならないけれども、この場合においても、構成要件該当行為としてとらえることができるのは、個々の客と経営者との間のゲーム機を通しての賭博行為であり、一定期間賭博を内容とする営業活動をしたことではないのである。そうすると、本件のようにいわゆるポーカーゲーム機による常習賭博の場合であっても、その訴因は、賭博行為自体については、刑法一八五条の場合と同程度に特定される必要があるものというべきである。

これを本件についてみると、中田長三以外の者との賭博行為についてはなんら特定されていないのであり、また、当公判廷で取調べ済みの全証拠によっても、昭和五九年一月中旬から同年三月一七日までの間に、中田長三以外には何人ぐらいの者とどのくらいの額の賭博行為がなされたかの点は、なんら立証されていないのである。そうすると、本件において賭博行為があったものとして立証があったのは中田長三を相手方とするものだけといわざるを得ない。したがって、当裁判所は、判示の限度で被告人の行為を認定したわけである。

本件のような常習賭博の事案については、営業開始の時点から摘発されるまでの間の営業活動すべてを処罰することが必要であることは十分に認められるところであり、東京地裁においても一定期間の営業活動をとらえて常習賭博を構成する事実と認定し、その間の利益を没収又は追徴する運用が行われていないわけではないが、当裁判所は、現行法の解釈上は無理であり、立法に委ねるべき事項と考える次第である。

二  没収について

刑法一九条により没収することができる対象となる物は、罪となるべき事実として認定された犯罪行為との間に同条一項の関係がなければならない。罪となるべき事実として認定されていない犯罪行為との間に同条一項の関係があっても、その物を没収することは許されないのである。

これを本件についてみると、本件遊技機六台は、中田長三が店に入って来て賭博をしようと考えた時点においては、同人は六台のうちどれを選択することも可能であったわけであり、被告人においても六台のうちのいずれをも賭博の用に供しようとしていたものであるから、右中田が実際に賭博に用いた遊技機は犯罪行為に供したものであり、その余の遊技機は犯罪行為に供せんとしたものというべきであり、いずれも、同条一項二号の物件にあたる。

主文3の現金一〇〇〇円は、右中田が賭博をするために入れたものであるから、同項一号にあたる。

司法警察員が押収し東京地方検察庁で保管中のその余の現金については、同条一項の要件を具備する旨の立証がない。

そして、主文3の物件の所有権は、いずれも被告人にあるものと認められる。

(量刑について)

被告人は、暴力団住吉連合会住吉一家石井会妻沼組の組長をしているものであるが、判示のとおり、ゲーム喫茶を経営し、遊技機六台を設置して多額の違法な利益を得ようとしたものであって、犯情は非常に悪質といわなければならないところ、被告人は、その経営者が輩下の者であるように口裏を合せてその責任を逃れようとしたこともうかがわれ、被告人の責任もまた重いといわなければならない。

そうすると、被告人が公判廷ではある程度事実を認め反省の態度を示していること、最近一〇年間は禁錮以上の刑に処せられたことがないこと、家庭にあっては良き夫であり父であること、被告人の身上等被告人にとって有利な情状を全て斟酌しても、主文の刑はやむを得ないものと判断した。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判官 堀籠幸男)

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